【263冊目】 Mary E. Carter “`Electronic Highway Robbery-An Artist's Guide to Copyrights in the Digital Era” Peachpit Press (1996)

もし、読者が書店の店頭でパソコン雑誌、とくにコンピュータ・アート関係の雑誌を手にとってみるならば、素材用ディジタル画像集10ドル、画像操作用プログラム100ドルなどといった広告が溢れていることに気づくはずだ。広告だけではない。見本のCD-ROMも付録として付いている。それだけ画像処理あるいはCGというアプリケーションが普及してきたということだろう。
 著者はカナダに籍をおくグラフィック・デザイナーであり、BBS上のコラムニストとしても評判になっているようだ。その著者がBBSを駆使してこの本を作った。その特徴は巻頭の謝辞をみれば分かる。そこには芸術家から弁護士にいたる人名が2ページにわたってリストされている。
 この本の特徴は現代の美術や広告を対象にしていることにある。したがって、はじめからコピーやカット・アンド・ペイストが存在するという理解を前提として記述を進めている。評者は、これまでこのような理解のもとで著作権を論じた本のあることを知らなかった。
 1章は「コピーと著作権法」である。著者はデュシャンやダリから説き起こし、ポップ・アートの世代へと続ける。ポップ・アート派はあらゆるもの――劇画、肖像写真、コーラ瓶、星条旗、ドル紙幣(すべてが著作権をもつとはいえないが)――をコピーした。だが、おなじくコピーをしたにもかかわらず、一方には訴訟にまきこまれたアーティストがおり、他方には訴訟とは無関係であったアーティストがいた。このように複製芸術を導入部にもってきた点、著作権論としては破格の趣向をもっている。
2章は「著作権論争」である。さまざまな利益集団の意見が紹介される。議員と官僚について6ページ、技術者について7ページ、弁護士について2ページ、美術家について4ページ。これから著者がどの部分に関心をもっているかが推測できるだろう。つまり、著者は既存の秩序をあてにしてない、ということだ。
 3章は「著作権判例」である。ここで紹介される判例はカット・アンド・ペイスト、パロディ、メディア変換に関する訴訟に対するものである。どれも侵害ありと判断されたもの、あるいは侵害ありと判断されるそうなものである。つまり、危険サイドの判例が引用されている。これから推測できるように、著者は、既存の秩序に対しては慎重な判断を示している。
 4章は「どこへ」というタイトルをもち、ここにはさまざまな議論が一括して編集されている。ここに「生き残り:作品を与え、生活を作れ」というタイトルの節がある。ここに著者の意見がもっとも強く示されているので、それを詳しく紹介しておこう。
 フリー・サンプルは伝統的かつ有効な販売戦略である。したがって、アーティストもこの戦略を採用すべきである。このためには、なにをフリーで流し、なにに対価をとるかを決定しなければならない。それは道徳的な判断ではなく、ビジネスの意志決定としてなされなければならない。
 アーティストはまず自分のサンプル作品をフリーで流し、自分の作品の宣伝をなすべきである。ここではネットワークによる流通が有効である。かれのサンプル作品が多くの人によって注目され、使用されれば、かれの作品への需要が増大するだろう(このあたりの発想は梅棹忠夫の「お布施理論」に近い)。
 だが、作品の市場価値を現実に高めるためには、その作品は市場において希少でなければならない。このためには商品としての作品をべつに制作し、こんどは限定版つまり伝統的なメディア(たとえば版画)として販売すべきである。このようにすれば顧客の数を限定できるので、その作品の著作権を十分に管理することができる(この主張は、海賊版が発行されると、そこに演奏ツアーに出掛け、そこでコンサートを開くロック歌手のピーター・ガブリエルを連想させる)。
 この本は著作権についての非専門家が書いた本であるために、法律的な考察については常識的な水準を越えてない。だが、アーティストの意識とその創作現場の実態について、それらを著作権とからませて書いてあるという点で、型破りの本といえる。

『法とコンピュータ』 15号 (1997年)