【190冊目】 クリス・ディボナ+サム・オックマン+マーク・ストーン(倉骨彰訳) 『オープンソースソフトウェア:彼らはいかにしてビジネススタンダードになったか』 オライリー・ジャパン (1999年)

マイクロソフトは、20世紀末において、もっとも成功した企業である。その製品は市場を席巻し、その経営者は巨万の富を手にしている。
 だが最近、そのマイクロソフトを脅かすものが出現してきた。一つは米国司法省による独禁法訴訟であり、もう一つは「リナックス」というソフトウェアの台頭である。本書は後者の関係者による論文集である。そのなかにはフリー・ソフトウェアの元祖ストールマンリナックスの開発者トーバルズも登場する。
 まず、この本の表題だが、「オープンソース・ソフトウェア」とは「フリー・ソフトウェア」あるいは「パブリック・ドメイン・ソフトウェア」に近いコンセプトをもつソフトウェアを指している。
 どこが違うかといえば「オープン・ソース」のほうは利潤目当てのビジネスにも適用可能という点である。こう主張しているのは、リナックス普及のリーダーシップをとってきたペレンスである。
 ビジネスに適用できるとはどういうことなのか。もともとフリー・ソフトウェアのビジネス・モデルはどんなものか。こう、オープン・ソフトウェア業界のボス、ヤングは語りかける。
 それは弁護士稼業のようなものだ。弁護士は報酬を得るが、その成果は判例であり、それはパブリック・ドメインに属する。
 いや、だれでも作れるがユーザーが製造者のブランドを信用して購入するトマト・ケチャップのようなものだ。そういうのなら、ただの水道水があるのに、ユーザーに購入欲をおこさせるミネラル・ウォーターともいえる。
 現実に、ネットスケープ社はブラウザーのナビゲータを無料にし、かつソース・コードを公開したが、その経緯について当の会社副社長ハマーリィが語る。
 このためには、ネットスケープ社の製品が会社の盛衰とは無関係に保守されるということをユーザーが納得しなければならない。つまり、会社とは独立した保守組織、が社外に存在してなければならない。会社はその社外組織と利害を異にするかもしれない。だが、そうした。
 ネットスケープ社にこのような決断をうながしたものはだれか。フリー・ソフトウェア界のマーガレット・ミードといわれているエリック・レインドであった。そのレイモンドが、フリー・ソフトウェア運動について、巻頭で歴史的な紹介をし、巻末で未来予測をしている。後者は「真のプログラマたちの回帰」と題されている。この表題が、本書が伝えたいメッセージを要約している。
 レイモンドは言う。オープン・ソース運動によってブルックスの法則を越えることができる。ブルックスとは大型汎用機IBM360の基本ソフトウェア開発者であり、「ブルックスの法則」とは、大勢の人間が係わるほど、その開発の成果物は不安定になるという問題であった。評者もそれを信じきっていたが、この本で蒙を解かれた。

東洋経済』 5581号 (1999年)