【191冊目】 井原哲夫 『ポスト大企業体制:サービス分業化が経済を変える』 講談社 (1990年)

この種の本には食傷しているよ、という読者が多いかもしれないが、あえて提灯をもつ。
 この本は、サービス産業早分かりといった効用をもつだけでなく、とくに大企業、製造業にどっぷり漬かっている人にとっては、自分の会社の行く末を占うためのよい手引きとなるはずである。
 第1章は「大企業全盛時代が終わる」として問題を整理する。規模の経済という制約が技術から消えた。もう多様化する消費を阻むものはない。これがここの指摘。
 第2章は「大企業が分解する」と主張する。これは、消費者の要望は高度化・多様化しつつあるが、これに応えることのできる商品開発集団(高度な専門職能)は高コスト・低稼働という特徴をもち、そのために企業内では調達しにくくなったからである。
 第3章は「なにがサービス分業化をはばんできたか」と説く。それは、サービスの需要と供給が時間的・空間的に一致しなければならないという条件、つまりサービスには作り溜がきかないということであった。ところが、情報通信技術の発展はこのバリアを壊しつつある。
 第4章は「新しい産業社会」を示す。サービス業はリスクが大きいので、それをヘッジするためにおこなう外注化が必然となる。また、このような対象に対しては融資より投資がなじむようになる。
 第5章は「独特な取引形態」を論じる。リスクが大きいサービス取引では、予約という制度の意味が大きい。その延長上に取引のなじみ関係が発生する。ただし、なじみ関係が競争を制限するかどうかについては明確でない。
 第6章は「価格づけと料金支払い方式」について語る。サービスでは、モノのように機能本位の価格づけができない。機能であれば品質の良し悪しを価格に反映できる。だが、サービスは好き嫌いがさきになり、価格支払い方式は多様化する。前払い、後払い、それに殺し屋方式(請負)まである。
 第7章は「働き方が変わる」と予測する。サービスが卓越するような社会では9時〜5時の定時間内労働はしだいに消えるだろう。なぜならば、時間帯にこだわらない市場ニーズが膨れあがり、そのために人は仕事があるときに働くことになるから。このような環境のもとでは、仕事の評価は現在の努力尊重方式から結果尊重主義に変質するだろう。
 この種の本はとかく聞き書き的な事例紹介に終始し、その論理づけをないがしろにするのが近頃の流行だが、この本にはそうした弱さはない。きちんとした主張を適度に抽象化した論理で表現しており、その分だけ理解しやすくなっている。
 この本には「ところが」という接続詞が多用されている。この接続詞の役目は、通説のあとで著者独特の論を展開することにある。

『データマネジメント』 346号 (1991年)