【回顧3】 電子図書館論:1990年代前半

このところ「電子図書館」とか「バーチャル・ライブラリ」などという用語をよく聞く。
 インターネットのなかにあるセルン(欧州原子核研究機構)のWWW(ワールド・ワイド・ウェイブ)など、その代表格のものとして引き合いに出されることが多い。米国でもNII(全国情報インフラストラクチュア構想)の一貫として電子図書館法などが議会に上程されているし(「行政とADP」8月号の拙稿参照)、日本でも国立国会図書館関西館を電子化図書館にしようという計画が具体化しはじめた。
 考えてみると、ランカスターの『紙なし情報システム』などという本が出たのは、1980年代のはじめであったし、その後アドニス計画など、あれこれと電子雑誌、電子図書館の実験もあった。(このへんの事情については、たとえば、C. McKnight: Electronic Journals-Past, Present...and Future?,Aslib Proceedings, 45[1](1993) を参照) 。
 こうした試行錯誤のあとで、インターネットの実績をモデルにした情報スーパーハイウェイ構想が、いまや電子図書館の実現を実現可能なものとして、だれにも見えるような姿にしつつある。
 「電子図書館」とはいったいどんなものなのか。この新しいコンセプトを、まず理解したい読者もあるだろう。この意味で、はじめに紹介したい本が、ここに紹介する長尾真著『電子図書館』(岩波書店,1994年)である。
 この本のキーワードは「インターネット図書館」と「マルチメディア図書館」である。著者は、これらの実用化が在来の図書館の利用方法にどんなインパクトをあたえるのかを明快に示している。しかも、これを支援技術のカタログ的説明としてではなく、図書館ユーザーの立場からみて、本の論理的構造がどのように変質し、それを先端技術がどう支えていけるのかという視点で説いてくれる。
 たまたま、11月のなかばに国会図書館、日本科学技術情報センター、学術情報センターの共同シンポジウムがあり、今後の情報流通のあり方について活発な論議が交わされた。ほとんどの発言者が強調したのは、インターネットの可能性と情報のデータベース化のあり方だった。この意味でも、この本の問題意識は、現状によく合致しているといえる。
 この本はたかだか 100ページの小冊子でありながら、平易に問題点をまとめている点で、この分野に関心をもとうとする人にとっては、効用vsコストの高いものといえる。
 電子図書館について、さらに関心をもつ読者があれば、そのような人には、例のテッド・ネルソン(竹内郁夫/斉藤康己監訳)の著書『リテラリーマシン:ハイパーテキスト言論』(アスキー出版局,1994年)を勧めたい。
 著者は、人類史上出現したすべてのドキュメントを電子化し、万人に提供できるような電子出版・電子文庫システムを提案し、それを「ザナドゥ」計画と名づけている。ちなみにザナドゥとは、詩人コールリッジが描いた理想郷のことだという。
 著者はこのためにドキュメントをハイパーテキスト化しなければならないとし、この本もハイパーテキストの方法で記述している。その説くところは情報論から情報サービス事業に及び、読者は知的な面白さと刺激に堪能できる。
 問題は、このようになったときに著作権はどうなるのか。これについてはNIIのタスク・フォースが‘Intellectual Property and the National Information Infrstructure' という報告を出している。これはインターネットで検索できる。

『情報システム・フォーラム』 394号 (1995年)