【197冊目】 堀部政男 『プライバシーと高度情報社会』 岩波書店 (1988年)

【2012年の注】 この時期、評者は政府税調の依頼を受けて、納税者番号制度の概念設計をしていた。

このところプライバシーに関する論議が高まってきた。政府が重い腰をあげて個人情報保護法を制定しようという動きを示しはじめたからである。
 現在、論じられているプライバシー保護法は公的セクターのみを対象としている。だからといって、これから論議される法律論議にビジネスが無関係ということはない。というのは、公的領域は、個人情報のソース(例、住民基本台帳)としてビジネスにとっても欠かせない領域だからである。また、公的領域でルールが決まれば、それはおそらく私的領域におけるモデル・ルールともなるはずである。
 とすれば、企業人もプライバシーに無関心でのままではすごせなくなるだろう。
 この本は現在、国、自治体、民間の各部門において別々にすすみつつある個人情報保護の制度化について、その重要な研究グループの多くでリーダーシップをとっている人によって書かれたものである。したがって、各分野における個人情報保護の状況について、目配りのよい紹介がなされている。しかも、それが理念論争のレベルではなく、制度論、手続論としてプラクチカルな態度で紹介されている。この点、企業人にとって役立つ。しかも、新書版なので、多忙な実務家にとって手頃である。
 まず、序論に相当する第1章「プライバシーをめぐる問題状況」がある。これにつづいて、第2章「プライバシーと個人情報」においては、プライバシー論の変遷が歴史的にたどられている。とくにコンピュータの出現によりプライバシー概念が「自己情報コントロール権」としての意味をもつようになった経緯が紹介される。
 第3章「個人情報保護の国際水準」では、OECDの「プライバシー・ガイドライン」にそって個人情報保護の具体的な手続きのあり方が丁寧に解説される。
 第4章「公的部門の個人情報保護」においては、国の状況と自治体の状況が紹介される。前者については、制度化はいまだしであり、したがってわずかに官庁統計における個人情報保護について論じられている程度である。後者については、先進的な自治体の条令を紹介しつつ、情報公開条令とのトレードオフなどが検討されている。
 第5章「民間部門の個人情報保護」においては、個人信用情報機関、金融機関、データベース・サービス企業、通信販売企業、マスメディア企業など、個別産業別に現状と課題が紹介されている。
 最後に、第6章「高度情報化社会の進展と個人情報保護」が全体をしめくくる。
 とかくプライバシーというものは、これを語る人のイデオロギーにかかわりやすい。論旨にバイアスがかかりやすい。議論がエモーショナルになりがちである。だが、ここに無色透明の個人情報保護の解説書が出現した。それがすなわちこの本である。(無色透明もまた一つのイデオロギーであるという意見もあろうが、ここではそれはおく。)

『コンピュートピア』 22巻261号 (1988年)