【213冊目】 江畑謙介 『兵器マフィア:器秘密取引の内幕』 光文社 (1992年)

著者の名前を見ると、多くの人は湾岸戦争のときにTVでなじみになった、その特異なスタイルを思いうかべることだろう。あの人の本ならば、多分、突飛な話をきかせてもらえるのではないか。こう思う人も少なくないだろう。だが、そんな期待をもってこの本を手にとる人がいれば、それは見事裏切られる。
 およそこの種の話題には、新聞の特集記事かノン・フィクション風の読み物が多い。だが、前者の場合には関係者のインタビュー記事をつないでお茶をにごすのが常套だし、後者の場合にはX国の陰謀か、といった張り扇的な娯楽物が多い。
 その点、この本の特徴はデータがぎっしりつまっていることである。もともと兵器貿易とは地下経済にぞくするものである。信憑性のあるデータなど、まず、ない。著者によれば、総体の二〇%も把握できていれば上々か、ということだ。
 つまり信頼できるデータのない世界の話を公開データのみをもって語る、という放れ技を著者はみせる。(数字を引用するにあたっては、かならずその信頼性についてコメントしている。)
 この放れ技を支えるものは著者の冷静な論理である。著者は、兵器マフィアという地下組織の行動様式と、兵器技術の発展と普及の条件について、納得のいく説明をしてくれる。
 じゃあ、この本は無味乾燥なのか、と読者は早合点するかもしれない。だが著者は話上手である。ウランを積載した輸送船がまるまる一隻大西洋上で消えてしまったとか、そんな007もどきのトピックスもとめどなく語る。
 このように論理とデータとトピックスとを組み合わせて、著者は兵器の国際流通の現状とその理由をたどる。この分野でイニシアティブをにぎっているのは、イスラエル南アフリカソビエト、フランス、中国など、どれも難しい国である、という。
 最後に著者は、日本のハイテク技術が兵器貿易の世界でもつ意味を整理する。東芝の工作機械輸出問題やFS−Xの日米摩擦問題に対して、日本が適切な対応策をとれなかったのはなぜか。ハードウェアの優位性のみに囚われ、実戦経験をまとめあげるソフトウェアの重要性を認識してないためであった、という。聞くべき意見だろう。

『東洋建材』 3月14日号 (1992年)