【222冊目】 伊丹敬之 『なぜ世界を制覇できたのか 日本のVTR産業』 NTT出版 (1988年)

【2012年の注】 かつて、「ジャパン・アズ・ナンバー・ワン」と呼ばれた時代があった。

 VTRの実用機をはじめて開発したのは米国のアンペックスである。だが、今日、VTRを生産しているのは、まず、日本のメーカーだけになってしまった。しかも、日本では、たくさんのメーカーが生産している。その理由はなぜか。その答えが、この本に紹介されている。
 まず米国企業の努力がなぜ実らなかったかが明らかにされ、ついで、日本の企業がなぜ成功したかが、示される。
 日本企業の成功には、部品産業の下支え、開発チームにおける技術融合、ハードウェア優先の商品コンセプトなどがあった。
 とくに、著者の指摘する方式内競争vs方式間競争という視点は重要である。日本企業はVTRというたった一つの方式内で競争をしたので、開発努力を集中することができた。
狭い枠――ベータvsVHS――のなかで技術の錬磨を競いあったために、洗練した製品の開発を確実に実現することができた。
 いっぽう米国企業は、方式間競争に熱中し、さまざまの技術分野――磁気テープ、フィルム、ホログラフィーなど――のなかで方式の優劣を争った。
とうぜん、開発力を集中(ランチェスターの戦術)した日本企業のほうが、開発が効率的となる。こうなれば、勝負はおのずから明らかである。
 この本には、VTR開発に関するヒューマン・ドキュメントは描かれていない。だからもし、人間くさい成功物語が欲しければ、読者は、中川靖造の『日本の磁気記録開発』(ダイヤモンド社1984年)かJ・ラードナーの『ファースト・フォワード』(西岡幸一訳、バーソナル・メディア、1988年)を読んだらよい。前者は日本側の視点で(日本企業はいかにして激烈な市場競争の勝者となったか)、後者は米国側の視点で(ハイテク製品はいかにして成熟社会に受容されたか)、それぞれVTRの開発競争をノン・フィクションの方法で描いたものである。
 (VTRをめぐる日米の発想の差は、じつは2人の著者たちの態度にも反映している。中川氏の本が日本企業の猛烈さを見せつける筆法をもっているのと対象的に、ラードナー氏の本は米国文明のあつみを感じさせる文体をもっている。)
 話が逸れたが、じつはこの本のように、企業間の合従連衡をたどるだけでも、けっこうノン・フィクション的な面白さはある。しかも、企業戦略を学ぶうえで、十分に教育的である。

『コンピュートピア』 11月号 (1989年)