【230冊目:その2】 霞が関地球温暖化問題研究会編 訳 『IPCC地球温暖化レポート:気候変動に関する政府間パネル報告書サマリー』 中央法規 (1991年)

                                                       
まず、冒頭の言葉を読んでほしい。「科学的知見」という見出しがあり、そこにゴシック体の活字で「我々は以下のことを確信する」と記され、「我々は確信を持って以下のように考える」と続く。その内容は、人間活動にともなう温室効果が存在し、それは計算可能である、という主張である。
 慎重で冷静であるはずの自然科学者が、かつてこんなにも主観的な調子のアピールを書いたことがあるだろうか。
 世界気象機関と国連環境計画は、地球温暖化問題を検討するために、1988年に「気候変動に関する政府間パネル(略称IPCC)」を設立した。パネルは科学的評価をおこなう第1部会、潜在的影響を考察する第2部会、対応戦略を検討する第3部会から構成された。この活動をするために、千人にのぼる科学者と専門家が世界各国から参加し、検討をおこなった。
 この報告は、IPCCの2年間にわたる研究成果をまとめたものである。
 第1部会の報告は、何が問題なのか、全地球的気候の決定要因は何か、温室ガス効果とは何か、なぜそれが増加しているか、気候変動の予測はできるか、予測の信頼性はどうか、と続く。
 第2部会の報告は、気候変動のさまざまな分野への影響を論じている。それは、農業、土地利用、林業、自然生態系、水資源、人間居住、エネルギー、交通、産業、健康、大気、沿岸、積雪にわたる。
 いずれの考察も、自然的影響のみではなく、その社会的、経済的影響にまで目配りがなされている。
 第3部会の報告は、主として対応戦略にかかわる。ここでは、温室ガスの人為的排出に関して、実態を推定し、将来の姿についてシナリオを作成し、さまざまな抑制策を評価している。
 とくに、対応戦略を実施するための財政的、制度的メカニズムについて、包括的なチェックリストを挙げている。このリストは、この分野の国際的協力になにが必要であるかを、端的に教えてくれる。
 この報告は、内容が刺激的であるにもかかわらず、逆にそれだからこそ、表現はきわめて不愛想に終始しており、この点、けっして読みやすいものではない。だが、その無味乾燥的な表現の下に、北の諸国と南の諸国が、また経済成長派と環境保護派が、どのようにして相互の利害を調整したのか、その苦労のあとが透けてみえる。
 つまりこの報告は、地球温暖化問題に対する国際協力、既存権益間協力の証ともみることができる。
 このような意味で、この本は、今後とも、この分野における基本文献であり続けるだろう。
(注)IPCC報告の最新版(第4次報告)は2007年に発行されている。

東洋経済』 6月⑮日号 (1991年)