【244冊目】 中山茂・後藤邦夫・吉岡斉編 『通史:日本の科学技術』(全4巻、別巻1) 学陽書房 (1995年)

戦後50年、いろいろな分野でこの半世紀を総括する試みが発表されている。このシリーズも、その一つといってよい。ここに戦後科学技術の発展を実証的かつ包括的に追跡した成果が集積されている。
 戦後日本は目ざましい経済発展をとげた。それを支えたものは国民のたゆまぬ労働意欲とこれを成果に結びつけた科学技術の急成長にあった。
 このシリーズは、その科学技術の展開について120のテーマを立て、それを1,700ページにおよぶ論文集として編集したものである。全体は、占領期(1945〜52年)、自立期(1952〜59年)、高度成長期(1960年代)、転形期(1970年代)の4巻にまとめられ、べつに索引と年表に1巻170ページが当てられている。
 評者は中学生として敗戦を迎え、一生を企業内技術者としてすごした世代に属するので、ここに述べられたさまざまなことを、まさに同時代史として読むことができた。
 このシリーズのテーマをアトランダムに拾っても、PBレポート、武谷技術論、技術導入、品質管理、糸川ロケット、新幹線、筑波研究都市など、評者のような一介の企業技術者でも、なんらかの形で繋がっていたテーマが少なくない。あのときの自分の仕事は歴史的な文脈のなかではこのように位置づけられていたのか、と改めて懐旧の情にふけったしだいである。
 だが、このシリーズは読者に懐旧の情をもたらすことを狙ったものではない。産軍複合体がリードした米ソの科学技術に伍して、日本の科学技術が成長した秘密を具体的なテーマに則して示そうとしたものである。それは非軍事・応用優先・企業主導の路線とでもいうべきものであった。
 編集者によれば、このシリーズは、とくに科学技術と社会との相互作用に焦点を当てたという。この意味で、技術振興制度や研究体制についての目配りを忘れていない。さらに、その視点を「官」「産」「学」「民」の4セクターに置いて分析を行ったともいう。ただし民セクターの立論は少ない。
 このシリーズは、12年の歳月と50人を越える研究者の共同プロジェクトの成果であるという。特筆すべきは、このプロジェクトはトヨタ財団から5,000万円にも達する助成を受けているとのことである。ここに新しい企業メセナのあり方があるといえよう。
 このシリーズは個人がポケットマネーで購入できるというものではないが、研究所や企画室のスタッフにとっては、技術開発の計画立案やその社会的受容を確認するうえで参考になるものといえる。

【2013年の注】 2012年に本書の続編となる『新・通史』が原書房から出版された。

東洋経済』 8月26日号 (1995年)