【248冊目】 一ノ渡勝彦/三輪真木子 『亜米利加解読新書』 世界文化社 (1991年)

1980年代を通じて、リサーチというものがビジネスのなかに浸透し、定着するようになった。企業のどんな部署にいる人でも、もうリサーチと無縁でいることはできない。ところが、このリサーチというもの、なかなか一筋縄でいく仕事ではない。
 どこが難しいのか。調査結果を依頼者の知的レベルに応じて表現することである。相手が理解できるプレゼンテーションをするということは、リサーチという仕事を職とするものにとっては不可欠な能力である。このためには、用語、要約、図表など、配慮すべき点はきわめて多い。
 ところで、リサーチ業務にとって、データベース検索という仕事は格別なメリットをもつ。というのは、どんな分野の情報にも、臆することなくアクセスできるからである。
 現実に、私たちのビジネス環境をみても、自分の専門分野に閉じ籠ってはいられなくなった。他の分野の情報を必要とすることがしばしばある。このようなときに、データベースというものは、専門外の人間にも、まずは一応のレベルの情報を与えてくれる。この点、アマチュアでもリサーチがしやすくなった。
 問題は、データベース検索で得たアウトプットを、最終ユーザーにどのようにしてプレゼンテーションするか、ということである。というのは、データベースのアウトプットはすべて同じ姿形をしているために、これらをそのまま見せられても、一般人は、どれが大切なデータで、どれがそうでないかを見当つけることができないから。
 だから検索者は、これにメリハリをつけて、構造ある情報に仕立てなければならない。これができてはじめて一人前のリサーチャーといえる。だが、このような努力の跡が一般人の目にふれる機会はほとんどない。多くの場合、リサーチの結果は顧客の机のなかに秘蔵されてしまうからだ。
 このような環境のなかで、この極意を意識的に公表した本が出現した。それがここに紹介するものである。著者は代行検索の分野では、すでに一家をなした人物、その人がみずからのノウハウを公開したことになる。読者は、この本を点検(リバース・エンジニアリング)することによって、ブレゼンテーションの極意を学ぶことができるはずである。
 この本の内容は、タイトルから推定できるように、同時代のアメリカに出現している社会現象を調査し、まとめたものである。それは、エリート像(例、業務拡大を狙う訴訟の仕事人)、企業戦略(例、活発化する企業フィランソロピー)、業界動向(例、プラスティックマネーの功罪)、生活基盤例(例、甦るか「美しいアメリカ」)、ライフスタイル(例、禁煙が変えるたばこ産業)、レジャー(例、衰えぬギャンブル人気)、冠婚葬祭(例、死後の世界にお金をかける)など、計42テーマにのぼる。各テーマは、それぞれ8ページほどの長さに要約され、視覚的にも理解しやすい図を使って表現されている。つまり、プレゼンテーションについて、読者の理解をうながし、読者を楽しませる工夫がなされている。
 ということで、ここに、私たちはリポートのまとめ方と表現方法について、良質のお手本――事例集――をみることができる。
なおこの種の本には、引用事例が陳腐である場合が多い。だが、この本はちがう。事例として、すべて読者の米国観をリフレッシュするようなクリティカルなテーマを選んでいる。だから読者は、手法の勉強をするだけでなく、内容を楽しむこともできる。

『情報管理』 11月号 (1991年)