【257冊目】 アメリカ憂慮する科学者連盟編(池山重朗+浜谷喜美子訳) 『エンプティ・プロミス:SDI構想の破綻』 日本評論社 (1987年)

この書物はは大規模システムとしてのSDI ――スター・ウォーズ構想に対して米国の科学者グループがおこなったフィージビリティスタディである。ここに大規模ソフトウェア開発の応用例として読める部分がある。
 大規模ソフトウェアとしてみた場合、興味ある論点は、第1にシステムのアーキテクチャーに関する考察、第2にそのシステムを実現するために必要なソフトウェアに関する検討である。
 まず、システムのアーキテクチャーについて。SDIは、全地球的に、しかもリアル・タイムで活動しなければならない。
 それは平時には高い信頼性のもとに管理されてなければならない。だが、いったん有事になると、遅滞なく行動を開始し、100万個に達する標的を追尾しつつ、臨機応変の対応をとらなければならない。標的の状況はもちろん、防衛側の状況も時々刻々変化する。
 このときに、システムに対する負担は極限に達する。まず、指揮を集中すべきか分散すべきか、という課題がある。集中すればシステムが脆弱になる。分散すれば指揮と管制の一元化が損なわれる。いずれにしても、システムの複雑さは極限になる。その実現可能性はあるのか。
 つぎに、ソフトウェアについて。ここで必要とされるソフトウェアは、楽観的な見積によっても、600万〜1000万ステップに達するという。そのための工数は4万〜6万人年に及ぶ。こんな巨大な(しかも精巧な)ソフトウェアを私たちは構築できるだろうか。
 大規模ソフトウェアの信頼性について、それをどのように保証したらよいのか。テストをどう実施したらよいのか(注)。また、信頼性を上げるためにはシステムに冗長性をもたせなければならないが、その冗長性はリアル・タイム性能を低下させる。どうすべきか。
 幸いにも、現在では、ここに示された途方もなく空おそろしい論議は不必要になった

(注)アイバース・ピーターソン(伊豆原弓訳)『殺人バグを終え』 日経BP社 (1997年:原著1996)参照。

『コンピュートピア』 21巻255号 (1987年)