【290冊目】 海老坂武 『加藤周一:二十世紀を問う』 岩波書店 (2013年)

加藤周一礼賛かと思って手にしたのだが違った。加藤周一批評といってよい。評者のように加藤周一にべたな読者――70年間もその語り口の面白さに吊られてきた――にとっては、示唆に富んだ本であった。
 この本の妙味は加藤周一の読者でなければ、理解できないだろう。というのは、全編、加藤の著書からの要約と引用で組み立てられているからである。たいへんな力技である。脱帽したい。評者自身、この本によって蒙を解かれた点がある。たとえば、加藤は、原爆投下後の広島での自らの行動を語っていないのはなぜか、新日本文学の論者たちとどこで行き違ったのか、小林秀雄についてなぜ語らなかったのか、などについて。
 私事にわたるが、評者も、一回り下ではあるが、加藤と同じ羊どし生まれである。だから『1946年文学的考察』以来、その著書は必ず手にしてきた。脇道にそれるが、『1946年文学的考察』(真善美社刊)の表紙は仙花紙ではあるが奇抜な線画をあしらった装幀で、戦争直後の解放感が溢れんばかりであった。さらにそれるが、この真善美社というのは、花田清輝などの著書を発行していた。
 このように、この本を手にした読者は、この半世紀を、自分史に重ねて読むことになるだろう。

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