【294冊目】 サイモン・ラモ(キヨコ・I・ザボースキー訳) 『ビジネス・オブ・サイエンス:アメリカハイテク時代の栄光と敗北』 パーソナルメディア (1990年)

これは良質の成功物語である。なぜ良質かといえば、まず、物語が波瀾万丈(ちょっと大袈裟かな)であること、それも、同時代のだれにも馴染みのある話題であること、しかも、主人公の人柄が立派なこと、そして、なによりも自伝であるということ。
 成功物語といえば、米国には、エジソンからアップルの若者にいたる、技術者の伝統がある。この本の主人公つまり著者も、成功した技術者の一人である。
 さっそく主人公の足取りをたどろう。
 著者は学生時代の音楽コンテストから語りはじめる。かれは、このために全預金を引き出して良い楽器を購入し、そのおかげでコンテストに優勝する(賭)。この優勝によって大学のレセプションに招待され、そこで知り合った人の伝手で、不況期ではあったがGEに就職できた(幸運)。かれは、その後の人生をこの「賭」と「幸運」にたよって、切り開く。(ただし、かれは賭をするときに、冷静な計算をしていることを隠さない。)
 第二次大戦が終わると、著者はミサイル研究という新分野でコンサルタント会社を設立することを夢見る。
 ここにハワード・ヒューズという奇矯な振る舞いで知られた大資産家が出現する。著者はかれの知遇をえ、資金的なバックアップをうけることになる。著者は、この企てに賛成する友人のウッドリッジとともに、ヒューズの気まぐれになやまされながら、事業をはじめる。このあたり、いかにも米国流成功物語。
 かれらの会社は、ヒューズの気まぐれを心配する軍の圧力によって、ヒューズの手から独立し、やがて、あの巨大な研究会社TRWへと発展する。ここで、かれはICBMからアポロ宇宙船へとつづく開発を手がける。この間、経営者の手腕も磨く。
 このあと、連邦政府はかれを有識者として遇し、安全保障や科学技術に関して、たくさんの役職につける。かれは、頑迷な官僚主義のなかで、合理的な政策をすすめようと腐心する。このへんの内幕話はどうしてなかなか深刻。
 最後に、かれは米国のハイテクをめぐる、栄光と敗北について語る。
 いかにも米国人らしい、また、いかにも技術者らしい、率直にして楽天的な自伝である。かれのなかでは、良心と軍事技術とが、幸福に共存している。
 
『データマネジメント』 343号 (1990年)